
優れたドキュメンタリー映画は世界観を変えるだけで終わらない。自分に対する見方を変えるのだ。
それが『DOGLEGS』。大胆不敵で、挑発的で、 深く考えさせる。あなたを予想外に感動させる作品だ。
リチャード・ウィテカー、オースティンクロニクル

障害プロレスとは
1991年、障害者のボランティアセンター(東京・世田谷区)
障害者のボランティア活動をしていた一人の女性に惚れた脳性麻痺の男二人。
彼等はあの手この手で彼女にアピールしたが、その求愛行動があまりに激しすぎたせいだろうか、しばらく経つと彼女はノイローゼとなり仕事を辞めてしまった。
お前のせいだと、お互いを激しく非難する二人。さらに周囲に煽られ、口喧嘩は殴り合いに発展する。
しかし、ここで不思議な現象が生じた。
怒りに任せ、転げ回りながらお互いを威嚇し攻撃する二人。眼力は鋭く、ぜえぜえと吐く息は生命力に満ちている。障害者同士、脳性麻痺者同士の喧嘩とはいえ、その光景には見るものの本能を呼び起こす何かがあった。
それを眺めていた、後の「アンチテーゼ」北島こと、ドッグレッグス代表北島行徳はふと、こう洩らす。
「これだ、このプロレスを人に見せよう。
障害者が体を人前にさらし、命がけで闘う。
それは、障害者について思考停止状態になっている健常者たちにとって、理解し難い衝撃を与えるはずだ。
障害者プロレスなら、固定化された障害者やボランティアのイメージを揺り動かすことができるかもしれない。」
この一声が、ドッグレッグスの産声となった。
現在、ドッグレッグスは定期的に300人以上の観客の前でレスリングの公演を行っている。
知的障害者VS身体障害者。障害者VS健常者。女装癖のあるアル中障害者VSその息子。
彼等の試合は、いわゆる普通の試合ではない。しかし、見るものに普通では得難い感動を与えてくれることは確かだ。
本映画について
本作『DOGLEGS』は、25年の歴史を誇る障害者プロレス団体「ドッグレッグス」の活動と、清掃員として働きながらスター選手として輝く矢野慎太郎=サンボ慎太郎や彼を取り巻く仲間たちの、笑いあり涙ありの日常を追い、5年の歳月をかけて作り上げたドキュメンタリーです。
20周年記念試合での2大スターの引退を賭けた世紀の一戦など、障害者と健常者が入り乱れて参加するアンダーグラウンドな障害者プロレスを通し、障害を持つ人が“障害者”という枠組みにとらわれずに一人の人間として自己表現する姿を描いていきます。
“障害”とは何か?誰が決めるのか?自由に、お互い愛し合って生きるということの意味とは何か?
本作が長編ドキュメンタリー初監督作となるヒース・カズンズのそんな問いかけが、私たちを直撃します。
あらすじ
矢野慎太郎=“サンボ慎太郎”は、清掃員の仕事をしながら「ドッグレッグス」のスター選手として活動している。リングでの20年に及ぶ輝かしい歴史とは裏腹に、年を取った彼は、レスラーを引退し“普通”の夢を追い求めたいとも考えている。
しかし、「ドッグレッグス」代表の北島行徳には、別の計画があった。
慎太郎の最も古くからのライバルである北島行徳=“アンチテーゼ北島”は、「20年間障害者を打ちのめし続けてきた健常者」と言われている。
彼は、慎太郎からの「最後にアンチテーゼ北島と対戦し引退したい」という挑戦を受け、「勝者だけが引退できる」という条件を付け承諾する。北島に対する慎太郎の連敗記録を考えれば、その結果は自ずと見えているようなものだった。
もう一人の「ドッグレッグス」レギュラーで、女装癖のある伝説のレスラー・“愛人(ラマン)”。彼にはほぼ全面的な麻痺があり、妻=“ミセス愛人(ミセスラマン)”と息子=“プチ愛人(プチラマン)”の反対にも関わらず症状を酒でごまかしていたため、重度のアルコール中毒でもある。
「ドッグレッグス」のために生き、「俺はリングの上で死ぬんだ」と呟く“ラマン”。そんな彼を見つめる“ミセスラマン”は、彼の意志と彼の命、そのどちらを尊重するのか?
そんな“ラマン”に酒を注ぐ男。介護士の中嶋有木。
彼にはいわゆる外面的な障害はないが、臨床的に鬱病と診断されている。精神障害を「認めてもらうこと」「尊重されること」を求めてリングに上がるが、鬱とレスリングが起こす化学反応は未知数だ。
慎太郎は日常を過ごしながら、彼の夢に向け練習を重ねる。
仕事を次のステップに進めるための試験。密かに抱き続ける女性への想い。彼を見守る先輩との何気ない会話。「やっと引退してくれる」と呟く母…。
そして、“サンボ慎太郎”と、彼の「影」のような師=“アンチテーゼ北島”との世紀の一戦がいよいよ近づく─。
「ドッグレッグス」は観衆に問いかける。
“障害”とは何なのか、そして、それは誰が決めるものなのか…。
サンボ慎太郎
サンボ慎太郎本作の主人公とも言うべき「サンボ慎太郎」は、ドッグレッグスの創成期からリング上で戦ってきた、ベテラン中のベテランレスラー。しかし20年という時間 は決して短くはない。彼も人並みに年を重ね、引退も視野に入れている。リングを去った後の人生や、好意を寄せている女性と一つになれる日のことも最近もっ ぱら頭に浮かぶ。しかし、タオルを投げ込む前に、彼には白黒つけなければならない相手がいる。そう、ドッグレッグス代表「アンチテーゼ北島」こと、北島行 徳という名の健常者だ。
アンチテーゼ北島
ドッグレッグス代表のアンチテーゼ北島。ドッグレッグスのブレインだがリンク上で戦う彼は猛獣と化す。彼は、「20年間障害者を打ちのめし続けてきた男」と賞賛されている。障害者と正々堂々と戦う事は、敬意の表しだと彼は信じている。
中嶋有木
中嶋有木中嶋有木もしも、周りの人からは見えない障害を抱えているとしたら・・・? 中嶋有木には、いわゆる「外面的」な障害はないが、臨床的に鬱病と診断されている。精神障害を「認めてもらうこと」「尊重されること」を求めリングに上がるが、鬱とレスリングが起こす科学反応は未知数だ。
愛人
「愛人」(ラ・マン)は女装癖のある伝説のレスラー。彼は脳性麻痺を抱えており、その症状を和らげるためにアルコールを利用する重度のアル中でもあ る。そんな彼が妻子に向かって、晴れの日も雨の日も、いつも呟く詞がある。「俺はリング上で死ぬんだ」。彼が、その前にアルコールにやられないといいの だが・・・
ミセスラマン
障害者であるのラマンは自分の酒を注ぐ事もできないが、死に至るまで飲み続けている。そんな彼を見つめるミセスラマンは彼の意志か命、どちらを尊重するのか?
THE FILMMAKER
本作「DOGLEGS]の監督であるヒースコーゼンズは、故郷のニュージーランドで、障害教育において操り人形師として働き、短編映画を作り、テレビで働いた後、1996年にビクトリア大学で映画の学位を取得しました。同年、日本に引っ越し、日本語を学んだ後、ニュース、ドキュメンタリー、CMの制作、監督、撮影、編集に携わる。
カズンズは現在アメリカに拠点を置いてるが、日本との強いつながりを維持しています。彼のドキュメンタリー作品では、Doglegsのように、常識を打破し、代わりに独自の現実を生み出す先駆者やアイコンクラストに焦点を合わせ続けています。


コメント
障害者プロレスのドキュメンタリー「DOGLEGS」はあなたの価値観を必ず揺さぶる
杉本穂高 (ハフィント・ンポスト)
優れたドキュメンタリー映画は世界観を変えるだけで終わらない。自分に対する見方を変えるのだ。それが『DOGLEGS』。大胆不敵で、挑発的で、 深く考えさせる。あなたを予想外に感動させる作品だ。
リチャード・ウィテカー(オースティンクロニクル)
『DOGLEGS』は、私がこれまでに経験したことがないぐらいの共感と慈愛に溢れていた。私はこの映画祭(Fantastic Fest)で素晴らしい作品をたくさん見たが、間違いなく一番好きだったのは、私を完全に打ちのめした『DOGLEGS』だ。
ジェイソン・ラピエール(映画監督)
この映画はすぐにあなたを強く抱きしめ、何故彼らは闘うのか、何故私たちがその是非を問うてはいけないのかということを、今まで考えてすらいなかったと気づいた瞬間にだけ解放してくれる。偉大な映画である。
マルドゥーン(エイント・イット・クール・ニュース)
僕は2000年前後にドッグレッグスの撮影を手伝っていた。その映像は会場でも同時中継され、レスラーたちの苦悶の表情をアップにする と、笑い声が聞こえてきたことを覚えている。正直、居心地の悪さはゼロではなかったのだが、この感情がドッグレッグスと関わるということなのだと思った。 しかし『DOGLEGS』には神々しさがある。この映像に映る彼らは何とまっとうな関わり合いをしているのだろうと痛感させられる。やっていることは当時 と変わらず愚直なままなのに。時代が試合の見方を変えたのだろうか。ただ一つ確かなのは制作者の敬意がドッグレッグスを輝かせているということだ。
松江哲明(ドキュメンタリー監督)
「DOGLEGS」はあなたの価値観を必ず揺さぶる
ハフィングトンポスト・杉本穂高